------------------- 血を飲むか 老いて死ぬ  百足は何も知らずに生きてこれたのです。蝸牛に食べられる夢は幾度となく見ましたが、実際は何かべたべたしたものせいで身動きがとれないだけでした。彼はまた確信してもいました。貪欲な蟻共は地面のつるつるしたこの場所にはいないだろうと。  希望というものがあったわけではありません。ただ彼はここで干からびて永遠に残るであろう美しい体のことを考えていたのです。特に起伏のある人生ではありませんでしたから、不満がなかったわけではありません。ですが、彼にとって傷のない体は自慢だったのです。  今にして思えばそこは大きな蜘蛛の巣によく似ていました。彼は勿論気が付いていましたが、もっと美しい比喩を探していたのです。  彼の予想に反して、体は原形を保ちませんでした。古くなった天井が彼の上に落ちてきたのです。  彼が最期に考えていたのは何でしょう。熱力学の第二法則なんかだったら洒落ていたかもしれません。勿論そんなことはないのですが。 ------------------- 練創ゲーム  夕日の綺麗な日にバスに乗ると、知っている人が一人もいないようなところまで行ってしまいたいと思うことがある。  私が生まれた国のバスはこんなに綺麗ではなかったし、運転も荒かった。祖母の家まで行く高速バスが怖かったのを覚えている。  私がこの国で暮らしてきた十年は、まるで乗客の少ないバス―ちょうどこのバスのような―に乗って、財布が空になるのを待っているかのような気分だった。  私はその間、なぜそのバスに乗ったのかなど考えず、ただ夕日を見ていればいいのだ。  今向かっているのは、次に私の住む国。 ------------------- 僕は虎  僕は虎。  成績も人間関係も、並か少し下か。  憧れがある。実現は無いと思っている。  何もしない。特別だと思いたい。  典型的。  恋をした。これは恋?苦しめたい。  血は嫌い。  僕は虎。血が欲しい。肉が欲しい。親が恋しい。  死に向かう。美しく、死に向かう。  僕はうそつきな虎。狐と仲の悪い泣き虫な虎。  朝が来たら僕は別人。  空は無意識からあがってくる。  心はあらわれない。  僕は虎。 -------------------  私は月でありたい。  貴方の光を受けてしか輝けない月でありたい。  貴方の光を受けなければ他者に気付かれもしない月でありたい。  貴方の心を捕らえたい。  私の心は、既に貴方の重力に捕らわれているというのに。  貴方には輝いて欲しい。  貴方は惹きつけて欲しい。  太陽のように輝き、太陽のように惹きつけ、太陽のように私を照らして欲しい。  私は貴方とは、月は太陽とは同じ舞台には立たないから。  私の表層を照らす唯一の光であって欲しい。  他の光はいらない。  貴方は私以外も照らし、私以外も引きつける。  その情熱を燃やし、皆に等しく光を見せる。  私は貴方にとっての特別ではない。  私は貴方にとっての特別ではなくていい。  貴方が私にとっての特別であって欲しい。  貴方が私にとっての特別である。  貴方は太陽であって欲しい。 -------------------  いつか言っていた遺書を書いてみました。  言葉に表せる事なんて少なくて、言葉に表したい事なんて少なくて、けど言葉 にしかない力を信じているからここに書いてみます。  先ず感謝編。  生み育ててくれた両親。良い道も悪い道も教えてくれました。今までの全ての ことは貴方達のお陰です。有難うございます。  弟達。僕は良い兄だったかな?あまり手本になることは出来なかったけど、僕 は君達の兄で良かったと思ってます。有難う。  友人。私の人生を豊かにしてくれました。僕の方向だけを向いているわけでは ないけれど確実に僕に恵みがある、そんな存在です。私が友人と思っていても、 相手からしたら違うことも、またその逆も然り。許容してくれて有難う。一人一 人に言いたい事はあるけど、出来るだけその必要の無いように生きたつもりです 。  恋人。僕の恋心はいつもフラフラしてるけど、どうしても独り占めしたくなっ てしまう存在です。こんな僕を受け入れてくれて有難う。君がいるから 色々な事が楽しくなったし、死ぬのが怖くなった。  親友。君は本当に僕にとっての太陽です。君が照らす範囲は広くて、 僕なんてその一部でしかないのだけど、君がいなかったら僕は死んでしまってい ます。君は僕が死んだことを怒るかもしれないけど最後は許してくれそうだね。  処分編。  お金は少ないと思うけど、峻志の為に。  その他の物は欲しいと思ってくれる人の為に。  死後の世界があるかは知らないけど、ある時のことを考えて筆と絵の具を一緒 に焼いてください。  感想編。  人はいつ死ぬかわからない、ということを周りの人の死を通して知ってから、 悔いないよう生きてきたつもりです。  絵、造形、読書、妖怪、空手、拳法・・・。やりたいことは何でも出来て、周りの人 にも恵まれて、楽しく過ごせたかなと思います。  僕のことを好きだったのではないかと思えるこの世界が大好きです。  本当に有難うございます。 (C) 2005-2013 diethyl_ether